新入生歓迎会の部活動紹介で大恥かいた話

日常, 過去話シリーズ

4月。僕にはこの時期になると嫌でも思い出してしまう中学の苦い記憶がある。

何年たっても脳ミソから消え去らない、あの忌々しいイベント・・・”新入生歓迎会”である。
正確に言うと、新入生歓迎会の部活動紹介だ。

当時、中学生だった僕はソフトテニス部に在籍していた。運動自体好きではなかったが、「中学生になったら部活動に入るものだ」という学校側からの圧に押され、嫌々ソフトテニス部に入部した。文化部に入ればよかったのでは・・・?と、思う方もいることだろう。僕も同感である。何故わざわざソフトテニス部に入ったのかは未だに謎のままだ。多分当時の僕しか知らない。

部活動に入部するまでは家に閉じこもって”スマブラ”と”デュエルマスターズ”ばかりやっていたため、当然運動神経は悪かった。テニスはもちろん下手くそのままだったし、走るのも遅かったためボール追いつくこともできなかった。そんな僕は先輩にへこへこしながら、1年間球拾いやランニング、壁打ちをしていた。正直全く苦ではなかった。むしろ引退するまでの間、この作業をしているだけならよかった。試合でコートに入ると周りから嫌でも注目されるため、誰からも見られない雑務をしているときが一番の安らぎだった。何度も言うが、僕は周りから注目されることが何よりも嫌いなのだ。そう何よりも・・・

ちょうど1年が経った4月のことである。先輩方が引退して新体制で部活動に取り組むことになったテニス部はいつもより気合が入っているようだった。僕の同期の何人かもすでに試合を通じてみるみる上手くなっていく。一方の僕はというと、今まで通りに球拾いや壁打ち、そしてランニング(校舎裏でサボっていた)などを駆使して、人目の付かないところでうまくやり過ごしていた。「ずっとこのままだったらいいなあ」そんなことまで思う始末。そうやってその日の練習も適当に終わらせて、残すは部活後恒例のミーティングだけだった。


「来週、新入生歓迎会がある。だから部活動の出し物を決めよう、今日。」

部長はそう言った。「今日決めるんすかw」「新入生歓迎会とか懐いな」「だりぃー」と皆不満を口にするも、結局残って出し物を決めることとなった。約1時間後・・・出し物の内容はインパクトを重視した結果、”体育館のステージ上からひたすらにスマッシュを打つ”ことで決定した。文章では説明しにくいため、下に構図を描いた。

お分かり頂けるだろうか。ステージ上にスマッシュを打つ人が10人くらい2列で並んでおり、ステージ下には各列に対応した球出し係がいる。ステージ下の球出し役がステージに向かってトスを上げて、それをステージ上でスマッシュを打つ。スマッシュを打ったら列の後方に移動してすぐさま次の人がスマッシュを打つ。これをひたすら繰り返すのである。
すると突然同学年の一人が、

「とりあえず○○(僕の名前)、お前球出し役なw」と言ってきた。

「え・・・?ごめん、ちょっとうまくできるか・・・」

「は?やれよ、お前スマッシュもできねーんだろ」

「い、いやその・・・」

「やれよ」

「分かった・・・」

こうして僕は球出し役を任されることとなった。全員参加ということもあって逃れることはできなかったが、せめてスマッシュ打つ役が良かった。ちなみに決して見栄えが良いからという理由ではない。先ほどの図からも分かる通り、スマッシュ役は大人数いるため注目の的から逃れやすい。対して球出し役は、新入生(また在校生)から最も近い距離に位置しており、なおかつ人数が2人だけである。周りから注目されるのが嫌いな僕にとってある種の拷問と言ってもいい。

スマッシュ役がよかった・・・スマッシュがよかった・・・ああ、くそう。なんで自分が球出し役なんかに・・・俺だってスマッシュくらい打てるわ、チクショウ・・・

部活の帰り道は、いつもより距離が長く感じられた。足取りも重い。絶望と不安、そして憎しみと哀しみの枷が両足に繋がれた感覚であった。日が暮れていくつれ、その枷はより一層重みを増していった。今を過ぎる1分1秒が新入生歓迎会までのカウントダウンな気がした。秒針を刻む音が絶え間なく聞こえてくる。ようやく家に帰還した僕は、夕飯を食べるや否や不安を払拭するかのようにスマブラに没頭した。大乱闘スマッシュブラザーズDXのホームランコンテストに没頭した。ガノンドロフで1300mまで飛ばせるのが僕の唯一の取柄であった。当然誰も褒めてくれやしない。

「ああ、ガノンドロフが現実にいたら、全員に”裏魔神拳”喰らわしたのにな・・・」

こんなことまで考えだす始末。それぐらい当時の僕は追い詰められていた。


1週間後・・・いよいよ新入生歓迎会当日が来てしまった。僕はガチガチに緊張していた。本番までにリハーサルは一度も無かった。スマッシュ役が良かった・・・スマッシュが良かった・・・と未だに球出し役であることに根に持っていた。周りでは「まあ、何とかなるっしょw」という楽観的スタンス。ああ、いいよな・・・

ついに部活動紹介が始まった。体育館の袖で待機し、他の部活動の紹介を見る。流行りの曲に合わせて各部活動が凝ったパフォーマンスを披露する。各々が個性を生かし、工夫を凝らしたパフォーマンスで新入生を沸かせている。会場のボルテージが高まっていく。そして何より彼ら彼女らは、

”今”を全力で生きている・・・

彼ら彼女らも大勢の前へ出ることに不安な気持ちがあったに違いない。それでもぶつかった壁には正面から立ち向かっている・・・うじうじと弱音を吐いていたのかもしれない。それでも腹を括り”今”を全力で生きている。

それなのに一体僕はどうだ・・・?

まだ殻を破り切れていない。未だに文句ばかり垂れて。情けない。腹を括れ。大丈夫さ。

自分に唱え続ける。
できる・・・できるさ・・・と。
周りに見られないようにこっそりと手に”人”の字を書いて飲み込む。
大丈夫・・・恐れるな・・・と。

いよいよ僕たちソフトテニス部の番だ。

もう手の震えは止まっていた。腹は括った。覚悟はある。
体育館の照明がまぶしい。熱気が伝ってくる。バトンを渡されたかのように、会場の盛り上がりは最高潮だ。

「それじゃあ、いっちょ行ってきますかな」
”不安”の二文字は完全に消えていた。

司会「では次に、ソフトテニス部お願いします」

「はい!」

定位置に付く。周りからの視線を感じる。でももう関係ないね。
よーく見とけよ、これがソフトテニス部だ・・・!

ボールを手に取り、ステージに向かってトスを上げる。

1球目、ボールはステージ上の部員の頭を大きく超えホームランする。
「あ、あれ?おかしいな」
一瞬頭が真っ白になる。

2球目、力を抜きすぎたのか、今度は胸のあたりまでしか飛ばない。これではスマッシュが打てない。
「え・・・?え?」

3球目、今度は力を入れすぎてステージ真上の垂れ幕にぶつかる。これも論外。
「ああ、待って・・・」
会場からはかすかにざわめきが聞こえる。

4球目、何をどうしたのか、隣の列の方へとボールを飛ばしてしまう。ノーコンである。
ざわめきから失笑に変わっているのが感じられる。

さっきの威勢は既に消えていた。もう一人の球出し役は安定している。絶え間なく強烈なスマッシュが打たれている。対する僕の方はというと、これまでに一度もまともな球を出せていない。ステージ上では呆れた彼らがラケットを構えずに僕のほうを睨んでくる。結局僕は3人くらいにしかまともに球を出せずに終了し、列は一周すらしなかった。

司会「ソフトテニス部のみなさん、ありがとうございました。」

会場からは疎らな拍手。僕は目のやり場がなく、下を向いたまま体育館から逃げるように立ち去った。今の状況で部員に会うのが恐怖でしかなく、そのままトイレの個室に籠ってその後の時間をやり過ごした。

ああ、やっぱりここが落ち着く・・・

その日は部活をサボり、教室に荷物だけ取りに行って速攻で帰った。そしてスマブラに明け暮れた。

ー完ー